医薬品の安全な使用には疑義照会が欠かせません。疑義照会とは、医師の処方に対して薬剤師が、患者の安全を確保するために行う確認作業のことです。
この記事では疑義照会の定義と、難しいと言われる理由について解説します。医師と薬剤師のコミュニケーションを取る際のコツも紹介するので、参考にしてください。この記事を読めば、疑義照会の実践的な書き方について学べ、日々の業務に役立てられます。
疑義照会の定義と種類
疑義照会は、医療ミスを防いで患者の安全を守ることが目的です。薬剤師が医師の書いた処方箋に対して、質問や確認を行います。
疑義照会には種類があります。よくされる照会は、以下の2つです。
- 形式的疑義照会
- 薬学的疑義照会
形式的疑義照会
形式的疑義照会は、処方箋の内容を詳細に検証し、誤りや不明瞭な部分がないかを精査する照会方法です。検証過程では、薬剤名や服用量、使用方法が明確に記されているかを慎重に確認します。法律で定められた規則に従って処方箋が作成されているかも、検討するべき項目です。
形式的疑義照会の目的は、処方箋に書かれた情報の正確さを保証し、患者が安全に薬を使用できるようにすることです。
薬学的疑義照会
薬学的疑義照会は、薬剤師が処方された薬について、さまざまな角度から確認します。疑問がある場合には、医師や患者と相談をします。薬学的疑義照会の具体的な要素は、以下のとおりです。
- 薬物同士の相互作用
- 患者のアレルギー歴の確認
- 用法・用量の適切性
- 既往歴との矛盾点の検証
- 重複投与の確認
- 承認されていない用途での薬剤使用の有無
患者が指導を適切に理解しているかや、副作用や管理上の注意点が考慮されているかも重要な確認事項です。症状に応じた投与量の調整も欠かせません。
処方された薬剤の有効性と安全性の評価が、薬学的疑義照会の目的です。
疑義照会が重要な理由
薬剤師にとって疑義照会が重要と言われる理由は、以下のとおりです。
- 法律上の義務であるため
- 医療費を削減するため
- 健康被害リスクを軽減するため
法律上の義務であるため
薬剤師による疑義照会は、法律上の義務です。薬剤師法では、疑問点がある場合に医師への確認が義務付けられています。疑義照会をすることで、誤った医薬品の交付を防げるからです。薬剤師は、医師の処方箋に基づいて正確に調剤する必要があります。
医師の処方箋が疑わしい場合には、疑義照会の実施が不可欠です。調剤過誤を事前に防ぐためのリスクマネジメントとしても、疑義照会は重要です。
医療費を削減するため
医療費の削減は、社会全体にとって重要なテーマと言えます。高齢化が進んだことにより、医療費が増大し続けているからです。不必要な薬の投与を避けられれば、治療にかかる費用の抑制が可能です。
薬剤師の介入で、患者の健康状態を長期にわたって適切に管理できます。入院や手術などの高額な医療行為が不要となり、大幅なコスト削減に役立ちます。
医療費の削減は、患者だけでなく、健康保険制度の持続可能性にもつながる重要な課題です。効率的な治療計画による、総合的な医療コストの削減が期待されています。適切に薬剤を管理することで、より多くの人が必要な治療を受けられます。
健康被害リスクを軽減するため
健康被害リスクの軽減には、医薬品の安全な使用が不可欠です。適切な使用により、過剰摂取や薬の相互作用による健康被害を避けられます。アレルギー歴や過去の病歴に基づいて、最も安全で効果的な薬を選ぶことが重要です。同じ成分の薬を重複して使わないことや、薬に過度に頼らないことも大切です。
処方ミスによる副作用や薬害を防ぐためにも、疑義照会はとても役立ちます。疑義照会が患者の安全を守り、健康被害リスクを低減します。
疑義照会が難しいと言われる理由
疑義照会が難しいと言われる理由は、以下のとおりです。
- 知識と経験が求められるため
- 医師とのコミュニケーションが必要なため
知識と経験が求められるため
薬剤師が疑義照会を行うためには、幅広い知識と豊富な経験が欠かせません。患者一人ひとりに適した薬剤と、適切な用量を決定するためです。薬理学の知識はもちろん、患者の病歴やアレルギー情報を熟知する必要があります。処方された薬剤が、他の薬とどのように作用するかを正確に理解することが重要です。
薬剤師は病状や治療の経過を観察し、最新の薬学研究に基づいた知識を常に更新する必要があります。一度学んで終わりではありません。臨床現場での経験から得られる知見は、疑問点を的確に把握し、解決するために不可欠です。
専門的な判断を下すためには、薬剤師としての責任感を持ち、チーム医療の一員として他の医療従事者と連携を取ることが大切です。知識と経験は、医師とのコミュニケーションにおいても、大きな役割を果たします。
医師とのコミュニケーションが必要なため
医師とのコミュニケーションは、患者の安全と治療の適正化を確保するために必要です。医師の診断を理解し、正確な情報交換を行うためには、円滑なコミュニケーションスキルが求められます。医師は忙しいことが多いので、適切なタイミングで問い合わせしなければなりません。
医師との信頼関係の構築も、質の高い疑義照会や質問しやすい環境を作るうえで不可欠です。信頼関係を築くことで、より効率的なコミュニケーションが可能になります。誤解や誤った仮定に基づくコミュニケーションを回避して、正しく情報を伝える技術が必要です。
医師とのコミュニケーションが効果的にできれば、疑義照会もスムーズに進み、患者の利益につながります。
疑義照会の書き方
疑義照会の書き方は、患者の安全を確保するうえで重要です。正しい方法で疑義照会を行うために、以下2つの場合にわけて解説します。
- 処方箋
- 薬歴
処方箋
処方箋に対して疑問がある場合、薬剤師は医師に問い合わせをする必要があります。問い合わせをする際に重要なポイントは、以下のとおりです。
- 不明瞭または誤記と思われる箇所の特定
- 具体的な問い合わせ内容の決定
- 患者の既往症やアレルギー歴
- 他に服用している薬剤情報
- 重複投薬や相互作用の可能性
- 患者の生活習慣や食事で考慮すべき点の列挙
- 薬剤師の判断に基づく代替薬の提案
薬剤師は患者の基本情報や薬剤の用法・用量に関する疑問点を明確にして、問い合わせをする能力が求められます。処方箋に不明瞭な箇所がある場合には、併せて指摘を行うべきです。患者の生活習慣や食事に配慮し、必要に応じて代替薬を提案します。
処方箋の発行からの時間経過や、他の薬剤の服用状況についても考慮する必要があります。複数の医師の署名がある場合には、それぞれの内容が相違していないかのクロスチェックも欠かせません。患者のことを第一に考えて疑義照会をすることで、最適な医療を提供できます。
薬歴
薬歴は患者の薬物療法に関する大切な情報です。具体的には、以下のような情報が含まれています。
- 以前服用した薬
- アレルギー情報
- 現在処方されている薬の名前
- 服用量
- 服用方法
- 処方された日数
上記の情報は、患者の健康状態や他の治療との関連を理解するために不可欠です。薬剤師が何か疑問を感じた際、薬歴は重要な資料となります。疑義照会をする前に必ず確認しましょう。患者への説明やアドバイスも、薬歴に詳細に記録されます。
法律により、薬剤師は薬歴の作成と管理が義務付けられています。遵守しないと、患者の安全が保たれません。近年では、電子薬歴システムの導入によって情報の正確性が高まり、必要なときに迅速に薬歴を確認できます。
疑義照会のよくある質問
疑義照会に関して、よくある質問は以下のとおりです。
- 疑義照会は必ず必要?
- 疑義照会の際に医師が不在のときはどうする?
- 疑義照会をしないとどうなる?
- 疑義照会をしたら誰の負担になる?
疑義照会は必ず必要?
疑義照会は必ず行うものではありません。薬剤師が処方箋に疑問を持ったときや、不明点があるときのみ行います。ただし、法律で定められている場合もあるため、状況に応じて薬剤師が判断し、適切に対応する必要があります。
疑義照会は形式的なものではなく、患者のための重要な安全策です。
疑義照会の際に医師が不在のときはどうする?
医師が不在の際に疑義照会が必要になった場合、通常は代わりとなる医師や看護師に問い合わせをします。代理の医師も見つからない場合は、医師が後で確認できるようにメッセージを残しましょう。
処方箋の内容に応じて、薬の交付を一時保留にすることも検討してください。患者に対して、医師が不在である旨を伝え、理解と協力を得ることが重要です。現代では、電子通信を利用して医師との連絡が取りやすくなっています。電子通信を駆使して疑義照会を行うことも可能です。
疑義照会をしないとどうなる?
疑義照会は薬剤師の義務であり、違反した場合には50万円以下の罰金が科せられます。医師の誤った処方に気付かぬまま、疑義照会をせずに薬を交付してしまうと、患者の健康を脅かす可能性があるからです。
患者に健康被害が及んだ場合は、損害賠償責任を負うことにもなりかねません。疑わしい場合は必ず疑義照会をして、妥当性を確認しましょう。
疑義照会をしたら誰の負担になる?
疑義照会をした場合は、医師の負担が増えます。処方箋に対する疑義照会は、薬剤師の責務ですが、疑義照会に回答するのは医師の責務です。多忙な診療の中で疑義照会に回答しなければならないので、医師の負担が重くなります。
疑義照会の正しい手順
疑義照会の適切な手順を理解することは、誤解を解消し、効率的なコミュニケーションを促進するうえで重要です。以下の手順に沿って進めましょう。
- 疑義の発見
- 必要な情報の収集
- 上司や同僚への相談
- 疑義照会
- 疑義照会の記録
疑義の発見
疑義の発見は、正確な情報収集と問題解決の第一歩です。まずは不明瞭または曖昧な情報を特定し、処方箋の誤りや矛盾を見つけ出すことが重要です。
規定や基準に基づいた間違いがないかを確認することで、最終的な疑問点や問題点を明確にできます。
必要な情報の収集
疑義が生じた際には、適切な情報を集めることが重要です。情報を集めることで、問題の正確な理解と適切な対応が可能になります。以下の情報を収集しましょう。
- 患者情報
- 患者の医療データ
- 薬歴
- 施行された治療や処方薬の具体的情報
法的な規制やガイドラインの最新情報も参照する必要があります。集めた情報を総合的に検討し、類似の事例や先行研究などを参考にすることで、より深い理解が得られます。
上司や同僚への相談
疑義照会に関する疑問が生じたときには、上司や同僚に相談してください。相談することで、問題の解決策を見つけやすくなり、自身の理解も深まります。
疑義照会には薬学的知識や経験が必要です。薬剤師としての経験が浅い場合は、正しい判断が難しいケースもあります。
判断に自信が持てない場合は、上司や同僚のアドバイスを受けましょう。アドバイスを元に行動計画を立て、迅速に対応することが重要です。
疑義照会
疑義照会を行う際は、疑義内容を整理しましょう。要点をまとめてから医師に伝えることが重要です。代替の薬剤や分量など、必要な情報を準備しておくと、疑義照会をスムーズに進められます。
日頃から医師とのコミュニケーションを大切にし、信頼関係を築いておくことも、円滑な疑義照会のためには大切です。
疑義照会の記録
疑義照会の後には、正確に記録することが重要です。今後の参照や問題の再発防止に役立ちます。処方箋および薬歴へ詳細に記録を残しましょう。記録方法は各施設や病院によって異なるため、規定の方法を守って記載することが大切です。
疑義照会の対応における課題
疑義照会の対応には多くの課題が存在します。適切に対応するためには、問題を理解し、解決策を見つけることが重要です。以下をチェックしましょう。
- 医師との信頼関係の構築
- 患者への配慮
医師との信頼関係の構築
医師との信頼関係の構築は、疑義照会において重要です。信頼関係がなければ、必要な情報の共有が適切に行われず、誤解が生じる可能性があるからです。
医師との信頼関係を築くために、以下のポイントを押さえましょう。
- 挨拶を欠かさない
- カンファレンスなどでお互いの意見や情報を共有する
医師からの質問には誠実に回答し、必要な情報を共有することも大切です。医師が提案する治療方法に疑問があれば、尊重の念を持ちつつも、遠慮せずに質問することが望ましいです。
患者への配慮
患者への配慮も、疑義照会を行う際に重要です。患者のプライバシーを守ることと、個々のニーズに敏感であることが求められます。
患者が抱える不安を軽減するために、適切な情報提供を心掛ける必要があります。患者の文化や価値観を尊重し、医病情報の共有については患者の同意を得ることが大切です。
患者への配慮は信頼関係の構築や、より良い医療サービスの提供につながります。
まとめ
薬剤の安全性と適切な使用を守るため、疑義照会は不可欠です。疑義が生じた場合は、厳密に精査して実行に移すことが重要です。医療費の削減や健康被害のリスク軽減にも効果があります。
疑義照会を実施するには、知識と経験が必要です。医師とのしっかりしたコミュニケーションが求められます。
患者の安全を最優先に考えた薬剤の処方と管理には、疑義照会が欠かせません。医療の質を高めるためにも、重要性を理解したうえで適切な対応が求められます。単なる義務として疑義照会を行うのではなく、患者第一という視点を常に忘れないでください。
医師でも誤った判断を下してしまうことはあります。患者に薬が交付される前の段階で食い止められるようにしましょう。